行動経済学会ベストナッジ賞

<行動経済学会ベストナッジ賞について>

行動経済学会では、行動経済学研究の社会への応用と実装を奨励し顕彰することを目的として、2022 年度より「行動経済学会ベストナッジ賞」を設定しました。行動経済学会年次大会におけるベストナッジ賞セッションの報告事例を審査し、来場者の投票結果を参考にしながら、特に優秀と認められた報告事例に対して「行動経済学会ベストナッジ賞」を授与します。

2018年度・2019年度・2021年度には、行動経済学会と環境省の共催で、「ベストナッジ賞コンテスト」を試行的に開催しました。その受賞事例にも、「行動経済学会ベストナッジ賞」が授与されます。

「行動経済学会ベストナッジ賞」の受賞事例には、その受賞を根拠にして、環境省より「ベストナッジ賞(環境大臣賞)」が授与される予定です。

<2022年度の審査結果及び講評>

審査結果:

2022年度の「行動経済学会ベストナッジ賞」の選考委員会は、下記の行動経済学会員で構成されました。

選考委員長:
佐々木周作(大阪大学)
選考委員:
石原 卓典(京都先端科学大学)
岩﨑 敬子(ニッセイ基礎研究所)
西畑 壮哉(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
森  知晴(立命館大学)

第一段階の書類選考、第二段階のポスター報告選考を踏まえた選考委員会による厳正な審査の結果、下記の4事例に「行動経済学会ベストナッジ賞」を授与するとともに、環境省ベストナッジ賞(環境大臣賞)に推薦することで決定いたしました。

「タクシー駐停車マナー改善ナッジ」
発表者:小林 健太郎(NTTデータ経営研究所)
実証フィールド:京都府京都市
「歩きスマホを防止するナッジ:フィールド実験による検証」
発表者:古木 一朗(三菱電機情報技術総合研究所)
実証フィールド:滋賀県彦根市
「可燃ごみ処理費の開示による資源循環促進」
発表者:日室 聡仁(NECソリューションイノベータ)
実証フィールド:宮城県南三陸町
「駐輪場の自転車の並びの改善へのナッジの活用」
発表者:堀井 彩帆,花田 彩芽,両見 真純(広島大学附属高校)
実証フィールド:広島大学附属高校

講評:

 今年度の「ベストナッジ賞コンテスト2022」では過去最多16事例の発表がありました。発表者の所属先が地方自治体・民間企業・大学・高等学校などと多様であること、いずれの事例においても介入の内容や検証の手続きが堅実であることから、ナッジの実践の裾野が、高い質を伴って日本社会に広がっていることを改めて実感できました。

 その中で「行動経済学会ベストナッジ賞」を受賞された4事例は、優れた新規性・独創性を有し、今後のナッジ実践の取組みにさらに新たな視点を提供してくれるものです。
 「タクシー駐停車マナー改善ナッジ」は、窓付き看板でタクシー運転手と利用者の両方に介入している点、利用者の参加により介入効果の増幅を試みている点がユニークで、選考委員会で高く評価されるとともに、行動経済学会第16回大会来場者による投票において最多の票数を獲得されました。
 「歩きスマホを防止するナッジ:フィールド実験による検証」は、ナッジの実践で一般的に採用されることの多い「他者や社会を意識させる介入」を、楽しさ・面白さを感じられるように演出することで、介入による不快感を低減させられた点が高く評価されました。
 「可燃ごみ処理費の開示による資源循環促進」は、客観的な事実の中から「いくらの費用を他市に支払っている」という損失回避や社会選好に関連する事実を見つけられれば、単純なチラシの提示であっても大きな改善効果を生むことのできる可能性を提示した点が高く評価され、2019年度に続いて、二度目の受賞となりました。
 「駐輪場の自転車の並びの改善へのナッジの活用」は、他の同様の取組みではアンケートによる意識調査などで効果測定されるだろうと想像されるところを、あくまでも行動に基づく評価にこだわり、ユニークで妥当な結果指標を考案して地道にデータ化された手続きが模範的であるとして、高く評価されました。

 惜しくも受賞に至らなかった事例の中にも、今後の発展可能性を感じさせるものが多くありました。効果がないという仮説が棄却されないことの確認に基づいた経費削減、空き家問題の解決のためには空き家になる前の段階からの働きかけが必要というタッチポイントの選定、職員同士のコミュニケーションの誘発装置としてポストイットの簡易活用、無作為比較試験が実施できない際の効果測定の工夫などの点で、多くの事例が好事例として選考委員会で言及されたことを申し添えて、今年度の総評といたします。

<2021年度までの受賞事例のご紹介>

2021年度

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「固定資産税の口座振替勧奨ナッジ」
つくばナッジ勉強会「避難行動要支援者の同意書の返送率の向上~封筒メッセージの効果検証~」

2019年度

NEC ソリューションイノベータ株式会社「感謝フィードバックによる資源循環促進」
中部管区警察局岐阜県情報通信部、関東管区警察局静岡県情報通信部「オプトアウト方式による休暇取得の促進」

2018年度

株式会社キャンサースキャン「大腸がん検診受診行動促進プロジェクト」
京都府宇治市「犬のフン害撲滅パトロール「イエローチョーク作戦」」